2009年12月26日

+謎ワイン+

 目の前に置かれたボヘミアングラス。優美な曲線の底にまるく一口二口分、血の色をした液体が入っている。
 好んで飲むのは辛口の白。ワイングラスなど使わず、ゴブレットで飲む。硬くスッキリしたものが良い。若くても構わないし安いならもっと良い。一人で一本空けてしまうことも、多くはないけれど、ある。
 赤は滅多に飲まないが、嫌いなのではない。初めて自分で買って飲んだものは赤だ。母が飲んでいたのとよく似た華奢なボトルだった。けれどそれはまったく美味しくなかった。その後も何度か深緑のボトルを試してみたが、どれもこれも、まだ30代だった母が「少しだけよ」と舐めさせてくれたものとはかけ離れた味で、軽かったり甘すぎたりした。
 私は諦めた。母が飲んでいたのは高級なヴィンテージワインだったのだ。違おうがそう思うことにする。母自身だって自分で買ってはいなかったのだから。私には手が届かないもの。もう、出会うこともないだろう。
 今、私はグラスから視線を逸らすことができない。泡立てながら注がれたためか、微かに芳しい香り。期待、裏切られる恐怖、興味、絶望への不安。唯一の救い、お代は隣の紳士が払ってくれるという。
 小刻みに震える右手が、ゆっくり引き寄せられていく。抗うことができない。ああ、もう、透き通った脚に、中指が触れてしまう。


++追記。++

 500文字の心臓タイトル競作参加作を一部改稿。
 初稿で500文字超えてたのにキョドり、削り方がおかしくなった。
 結果。
 正選 1p
 以上。
posted by 三里アキラ at 00:12| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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