2010年07月03日

+嘘泥棒+

 エリィは街外れのアトリエで彫嘘を生業としている。彫嘘なんて僕たち庶民には役に立たないものなので、エリィは月に1度、とびっきりの嘘と共に貴族のお屋敷に行く。黒く大きな馬が引く豪華な車がアトリエの前に停まり、エリィがお屋敷に行く日なのだと判る。
 アトリエはとても質素で、ドアはいつも開けっぱなしだ。お母さんなんかは「あんな人のところに行くんじゃないよ」と言うが、僕はよくアトリエに入り込む。ずらりと並んだ嘘を見る僕を、エリィは歓迎するでもなく追い出すでもない。ただずっと彫嘘を続ける。1つ、小さな嘘をポケットに滑り込ませた。つい。出来心で。華奢なガラスで1羽の赤い鳥が装飾された彫嘘だ。手にじわりと汗がにじみ、背徳感で周囲を見渡すとエリィと目が合う。慌てて喚く。
「ねえ、エリィ。こんなに無造作に置いていたら、盗まれたりするんじゃないの?」
 そうねぇ、とエリィは言う。
「捨てるほどあるんだから、必要なら持って行ってかまわないわ。誰かの役に立つとしたら嬉しくもある。私は好きなように嘘を吐ければいいのよ」
 その日以来、エリィのアトリエには立ち寄っていない。窓辺に置いた嘘を見ると、胸がくっと苦しくなる。

++追記。++

 500文字の心臓第96回タイトル競作参加。
 お題を見てから「彫嘘師」というタイトルで1本書きかけ(書き上げてはいない)、それの発展的な位置の作品。「嘘泥棒」だけで単体で読めるものにならなかったのは私の腕、という反省。

 結果:×△
posted by 三里アキラ at 00:16| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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