2011年02月05日

+あおぞらにんぎょ+

 浮遊するジュゴンの母子が、呼吸の為に海へキスをする。ちゃぷん。

 青い海に沈んだ男が海面に目を遣り、寄り添う二つの影を掴もうと手を伸ばす。ごぼり。

 境界は波。遠くの低気圧でうねる。ざばん。届かない。届かない触れない。届かない触れない、他者。けれど互いの存在が見えてしまうのだもの、思いを馳せてしまうじゃないか。太陽が波を焼く。見えないけれど水蒸気が昇っている。もうじきここにも低気圧が来るだろう。天は曇るだろう、嵐が来るかもしれない。母子は太陽を目指す。目指して高く、もっとずっと高く、どこまでも高く。次の呼吸は成層圏を抜けてからだ。闇の宙へキスをするのだ。そのまま重力圏を抜けて旅立つのだ。遠く遠くへ。誰もいないところへ。それが幸福の海だと信じて。男からはやがて見えなくなる。見えなくなるがまだ海面を見つめ続ける。忘れよう、忘れるべきなのだとそう言い聞かせる。けれどまだ目を逸らせない。まだ。ゆっくりと沈み始める、深く下へ、意思とは関係なく。遠くなる。涙はそのまま海へ溶ける。涙とは何か。羊水のように海が包む。目を閉じる。やがて眠る。

 ほら、やっぱり雨が降り始めた。

++追記。++

 500文字の心臓第101回タイトル競作参加。

 タイトル「あおぞらにんぎょ」からは、強く「死」をイメージしました。
 だから、ちゃんと死を書こうと思いました。

 結果:×△

posted by 三里アキラ at 00:06| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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