「チナツー、お手本お手本っ」
泳ぎを教えてくれ、と言ったマスミは派手な色の水着だ。私は競泳用。なんだか気合を入れて泳ぎに来たようで恥ずかしいが、私はこれしか持っていない。ゆったりとクロールをしてみせる。マスミは真剣に見つめる。
水泳部にいた頃はバタフライを専門としていた。水のリズムに体を添わせ、飛沫を上げて泳いでいた。体に染み渡ったリズムと感触は、いくつ夏が来ても忘れないだろう。
マスミはバタ足を沈ませながらも何とか息継ぎをする。息継ぎのコツを教える。マスミはそれに従い、また、泳ぐ。羨ましいほどの熱心さだ。
私はもうバタフライなんか泳がない。今更泳いだところで私の「あの頃」は戻ってこないから。キラキラした思い出のまま、良かったことだけ残しておきたい。「今」は、もう、二度と、来ないから。