2011年07月30日

+飛べないバタフライ+

 屋外プールが開放されたので、屋内のほうに人は少ない。子供の騒ぎ声も外のもの。プールなんて何年ぶりだろう。高校では水泳部だったけれど、その後はめっきり泳がなくなった。
「チナツー、お手本お手本っ」
 泳ぎを教えてくれ、と言ったマスミは派手な色の水着だ。私は競泳用。なんだか気合を入れて泳ぎに来たようで恥ずかしいが、私はこれしか持っていない。ゆったりとクロールをしてみせる。マスミは真剣に見つめる。
 水泳部にいた頃はバタフライを専門としていた。水のリズムに体を添わせ、飛沫を上げて泳いでいた。体に染み渡ったリズムと感触は、いくつ夏が来ても忘れないだろう。
 マスミはバタ足を沈ませながらも何とか息継ぎをする。息継ぎのコツを教える。マスミはそれに従い、また、泳ぐ。羨ましいほどの熱心さだ。
 私はもうバタフライなんか泳がない。今更泳いだところで私の「あの頃」は戻ってこないから。キラキラした思い出のまま、良かったことだけ残しておきたい。「今」は、もう、二度と、来ないから。
posted by 三里アキラ at 18:27| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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