2011年06月18日

+空を見上げたら+

 空を見上げたら太陽があった。
 あの時も、空を見上げたら太陽があった。暑い夏の日で、セミがせわしなくジワジワ鳴いていて、じっとしていても汗が滴った。風は熱気で乾いていた。そこに僕は挫折を見ていた。
 あの時は、空を見上げたら星空があった。冷たい北風が吹き抜け、人恋しかった。鳴らないケータイを手に、窓辺にいた。そこに僕は寂しさを見ていた。
 空を見上げたら太陽がある。
 西の空に飛行機雲。明日は雨が降るのかもしれない。
 僕はまた空を見上げるだろう。けれどそこに、明日を見つけるために。


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疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編
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2011年06月11日

+ヌードレイン+

 まだ裸の私に雨が優しく降り注ぐ。
 貴方はどこ? 私の何もかもを持ち去ってしまった。ピアスも時計も鞄も服も下着も、記憶や名前さえも。貴方はどこ?
 残されたのは微かな火照りと、この身体。
 静かだ。
 雨は冷たくて、身体の火照りを穏やかに静めてゆく。
 このまま眠ろうか。優しい雨がきっと溺れさせてくれるから。
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2011年06月05日

+真昼の月+

 月はいつだっておんなじ顔を地球に向けてるんだって。
 僕はね、君に会うとき笑顔でいるよ。
 だから今は、頑張らなくていいから、僕を頼って。



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2011年05月28日

+A.I.+

 神様なんて信じてないよ。
 だって、だったらなんでこんなに苦しまなくちゃいけないのさ。

 そう言ったロボットは、きしむ腕を使って自身に油を注す。

 歩けるよ。
 動いているから、その間は大丈夫。

 ロボットには表情がないけれど、動けない僕を気遣ってくれているんだろう。
 その思考プログラムによって。
 僕のために作られたという事実によって。
 だから、壊れたら僕がきちんと修理するから、しっかりと手にドライバーを握る。



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2011年05月21日

+初夏+

 目覚まし時計が鳴って、夏の女神がだるそうに右手だけ伸ばして止める。キャミソールにハーフパンツ姿で青いブランケットをかぶった女神は、まだと二度寝でもするのかうつ伏せで動かない。
 少しの間があって、もう一つの目覚まし時計が鳴り始める。女神は小さく呻き、それも右手だけ伸ばして止める。止めてまた呻く。長く茶色い髪が腕や顔に絡まるので、それが鬱陶しいのかもしれない。女神は伸びをして、諦めて金色の瞳を開き、むくりと起き上がる。
 立ち上がると陽射し。眩しい陽射し。
 洗面台の冷たい川で顔を洗った女神は、クローゼットを開け、明るい色の中から若葉のワンピースを身に付ける。風が吹き、萌木の香りが流れる。
 輝く命の季節。夏の女神はまだ眠そうに、世界が移ろい行くのを見つめる。


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2011年05月07日

+パルフェ+

 歪な建造物は空高く、しかし絶妙なバランスでそこに鎮座している。神の怒りさえ恐れず。
 雷鳴が轟く。豪雨。突風。雹。なんという荒天。
 歪な意志は、硬く尖った鉱石に輝き続ける。我こそがこの世界の統治者だとでも言うように。
 悪魔は建造物をその意志ごと食べ始める。悪魔こそが創造者の理解者であり、同時に保護者である。他の者は誰もその思考に追いつく事さえ出来ない。悪魔との融解、遊快。創造者は唯一人、世界の核心に迫る。そしてその圧力に潰される。
 神は赦すだろうか。赦さないかもしれない。創造者をそこに放置したのは神自身であるというのに。
 建造物は誰の接触も許さず、歪なままそっくりと消える。そこには、空白。
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2011年04月30日

+月明かりのダンス+

 月の光が照らす夜。みんなでダンスを踊りましょう。
 月の力に引っ張られ、折れた花も首もたげ、空をめがけて咲きほこる。

 さぁさ、ダンスを踊りましょう。
 寂しく地面を見つめずに、顔を上げて踊りましょう。

 ほらほら、あの子も踊ってる。
 ほらほら、あの人踊ってる。

 月の光に照らされて、みんなみんなが踊りだす。
 みんなで大地を踏みならし、祈りをこめて踊る夜。

 祈りが空へ届けばいい。
 届いて光がませばいい。
 闇夜を照らす月明かり。

 月の光が照らす夜。みんなでダンスを踊りましょう。
 月の光に引っ張られ、折れた心も首もたげ、空を見つめて踊りだす。

 さぁさ、キミも踊ろうよ。
 みんなで言おうよ「元気だよ」って。



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2011年04月23日

+伝言ゲーム+

 ねぇ、誰かあの人に伝えて。
 そうつぶやいたら、大勢の小鳥たちが「わたしたちがつたえるよ」って。小鳥たちはピィピィ騒ぎながら私の周りに集まる。
 でもね、遠いところにいるんだよ。
 そう説明したら、「わたしたちがべつのコトリにつたえて、そのコたちにつたえてもらうよ」って。

 だから私は託したの。あの人に伝えたい言葉。小鳥たちは懸命にその音をなぞって、歌いながら飛び立った。

 家でぼんやりしていると、ラジオから私の音が流れた。気になって調べてみると、あるミュージシャンが小鳥のさえずりにインスパイアされて歌に仕上げたらしい。
 街を歩いていると、すれ違う人がみな、その歌を歌っている。その歌はありがとうと締めくくられる。
 小鳥たちは伝言ゲームのように言葉を、音を伝えたようだ。それはきっとピィピィ騒がしいものだったに違いない。

 そっか、小鳥たちの伝言は拡散されちゃったのね。
 ふふふ、とちょっぴり笑ってしまう。どうやら世界中に私の音は伝わってしまったみたい。少し、まろやかな表現となって。
 ねぇ、あの人にもちゃんと届いているかしら。


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2011年04月09日

+ガラスのバラ+

 一輪の透き通った赤いバラ。精巧に作られたガラス細工。
 細い緑の茎。薄い葉。棘までちゃんとあって。
 花言葉は「愛してる」。壊れやすい私の想い。あの人の頬にぶつけたい。
 きっとバラは砕けて、尖った破片であの人の顔に傷を作るだろう。
 このバラは私の手の中に。
 ずっとずっと手の中に。
 想いは、明かさない。本当は誰も傷つけたくないから。
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2011年04月02日

+RAY PERSON+

 暗闇でひとり心細かったところに一筋の光が差し込んで、わたし、ガラにもなく涙出ちゃったの。光は手の形をしていて、わたしが手を差し出すとそっと握り返してくれた。そのまま光に包まれて、ひょいと掬い上げられたの。こっち側へ。みんながいるほうへ。
 光があるだけで、世界はぜんぜん違ってみえたの。びっくりするくらい。しばらくして気付いた。光はみんなだったの。みんながひとりひとり光っていたの。わたしははじめ、みんなの光を吸い込むばかりだった。だったんだけど、みんなといるとわたしも光を灯しはじめたことに気付いたの。最初はほんのり、やがて力強く。
 だからわたし、光になって差し込むの、暗闇に。だれかに手を差し出されたら、そっと、でもしっかりと握り返したいの。わたしがしてもらったみたいに。


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2011年03月26日

+Everlasting Steps+

 私たちは歩き続ける。ただ歩き続ける。
 考え事は脳に任せておけばいい。呼吸は肺と口がやってくれる。岩が前を阻んだら手で押しのければいい。私たち――この体――は歩き続ける。
 走らないほうがいい。止まらないほうがいい。今できるペースで私たちは歩き続ける。
 終わりはない。それは苦しい事なのかもしれない。けれど私たちは歩き続ける。
 進む。少しずつでも。前進したことは後ろに残る足跡が証明してくれるから、余計な心配は、いらない。

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2011年03月19日

+ぼく達の巣立ち+

 空から雪が降ってくるから寒い寒いって震えてたんだけど、みっしり集まったらみんなの体温があったかい。繋がってるってあったかい。
 ひらり。
「あ、ピンク色の雪」
 誰かが言って、よく見たらそれは花びらで、お日様がさんさんと照らして空気もあったかくなって、ぼく達は歩けるようになって、ずんずん歩いて、自分の足で未来を目指す。
 だってこんなに明るいんだもの。


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2011年03月05日

+lost emotion+

 その国の言葉で『衝動』と名付けられた栗毛の馬が王子の愛馬である。大変に美しく大きな馬であるが、大変に神経質で気難しくもあり、まったく人を近付けない。唯一、王子だけが『衝動』に触れることができる。世話から装具から何から、全て王子が自ら行う。
 王子を乗せた『衝動』の金色のたてがみがなびく。国で一番の力強い脚は、野を駆け山を駆け、そのまま遠く空へ飛び立つのではないかと思わせる。
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2011年02月26日

+すずね+

 小人が手を掲げるとシャララン。小さな鈴が揺れる。
 音は小さな波で、波は震えて熱を、熱はけれど少しずつ。
 氷が融ける。
 中に閉じ込められた空気が記憶が、解き放たれる。
 シャララン。シャララン。
 全部融けたら無音。暖かなひだまり。
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2011年02月19日

+レプリカ+

 たまごがころんとテーブルの上。
「さて問題です。これは本物でしょうか、偽物でしょうか」
 妻が言うのでたまごに手を伸ばして「ダメ、触っちゃ」と止められる。さてどうしたものか。
 たまごの形をしている。白い。表面は少しざらついているように見える。僕が感じるには本物のたまご。僕が感じるには。妻の性格が問題だ。こういうことをわざわざ言ってくるってことは何か裏がある気がする。僕をびっくりさせるのが大好きな妻だから。
 困った顔でたまごと妻の顔を交互に見ていると、妻はにやにやして、人差し指をたまごに近付けそのまま突き刺す。くしゃりとばらばらになるたまご。
「偽物?」
 僕は口に出す。妻は首を振る。
「本物」
 にやにやして、白いかけらを妻は手のひらに取る。
「本物のたまご。の殻。上手に剥けたから内側からくっつけたの。んで、ちょっと塗装もして」
 かわいい、と妻のほっぺを触ろうと手を伸ばして、触れて、そこからぱらぱらとくずれる妻。
「偽物じゃないの。本物。の殻」
 硬直する僕に妻はいつものあどけない笑顔。だけどくずれている。
「びっくりさせようと思って」
 まだ何も言えない僕にかけられる妻の戸惑った声。
「中身はお風呂で温めてるから心配しないで」
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2011年02月12日

+チョコレートプレイ+

「テーブルの、食べていいから」
 そう言い残して、姉貴はバタバタと着替えて出かけていった。
 キッチンはお菓子作りの残骸が散らかっている。ボウルもオーブンも、汚れたままほったらかしだ。テーブルの上には数個のフォンダンショコラが置かれている。まだ暖かい。
 一つをフォークで割る。とろりとチョコレートが溢れる。
 引き寄せられるように、割れ目に口を付ける。
 舐める。甘い。
 狂ったように舐め続ける。チョコレートは溢れ続ける。
 目を瞑り舐めていると、巨大なフォンダンショコラを舐めているような気になる。溢れるチョコレートをただただ舐め続ける。暖かく、甘い。気持ちが高ぶり、心臓は早鐘を打つ。舌を這わせる。甘い。甘い。甘い。
 口の周りをチョコレートで汚し、食べ終わると、姉貴が目を潤ませて立ち竦んでいた。顔が上気している。
 どうやら、持って行くフォンダンショコラを間違えたらしい。
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2011年01月29日

+猫にミルク+

 甘えたい。でも言わない。アタシは強い女らしいので。
 背筋をピンと伸ばして歩く。気を抜くとアタシは猫背になってしまう。それはあまりかっこいいものではない。
 年下男ばかりが寄ってくる。年下男は甘えてくる。嫌われるのが怖くて甘えさせてあげる。年下男はやがて巣立つ。そしてアタシはまた独り。
 パンツスーツを処分したい。黒いシャツを処分したい。ビジネス書を処分したい。自己啓発書を処分したい。
 買ったまま仕舞い込んでいたスクールガール風ワンピースに初めて袖を通す。ペタンコの靴を履き、アイスクリーム屋さんに行く。
「ミルクジェラートください」
 店長だろうか、おじさんがジェラートを盛り付ける。
「ちょっとおまけで多くしておくよ」
 おじさんが笑顔で言うのでアタシも笑顔で「ありがとう」と言う。舐める。甘い。冷たくて甘い。
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2011年01月22日

+画用紙の旅+

 一人の部屋で少女が描いたイルカはとても生き生きとしていて、画用紙から飛び出しました。
 イルカは空中を泳ぎます。背には少女を乗せて。遠く、遠くへ。
 海が見え、嬉しくなったイルカはざばんと波打ち際に飛び込みました。
 ところがイルカは画用紙だったのでしゅわしゅわと力を失い、浜辺には少女が独り取り残されました。
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2011年01月15日

+微熱+

「不安が増すと口数が増えてしまうの」
 昔の私がそう言うと「薬だよ」って口にビー玉みたいな青い飴玉を放り込まれた。甘い。
 あれからスーパーで似たような飴玉を見つけては買う。似たような味だけれど、どれも「薬」にはなりえなかった。
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2011年01月08日

+雨音+

 ひどい雨が降っていることは知っていたけれど、その音があまりに激しくなったので霰か雹でも降ってきたのかと思ってベランダに出てみると、雨粒が降り積もっていた。乱暴に手で掬うとばしゃりとはじける。慎重に拾い上げた。まるでビーズ。透き通っていて、冷たい。降り積もる。まだまだずっと降り積もる。キラキラ。
 ふと思い立って、テグスで雨粒を繋いでみた。集中力が足りてないのであまり多くは繋げず、出来上がったのはブレスレット。左腕にそっとかけた。
 このブレスレットをつけてから涙が流れないけれど、きっとそれは良いこと。
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