2010年01月04日

+間違い街角+

「おっと」
「あ」
 パンを咥えたこの女子高生とはぶつからずに済んだ。睨まれた。なぜ。
 いやいいんだ、バターもパンくずも僕の服には付かなかったんだから。

++追記。++
posted by 三里アキラ at 00:12| Comment(4) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年01月01日

2010お年賀

 その虎は寝床にラジオを持ってきて、何年も電源オンで置きっぱなし。
 旅行者の誰かが置き去りにしたトランジスタラジオは、自動発電式であるがゆえに今なおDJの声と最新ナンバーを届け続け、密林の中一匹でいても寂しくない。
「3・2・1、Happy New Year!!」
 虎はラジオから聞こえてくる言葉も人間の行事もわからないけれど、年に一度聞こえる歓声はなんだか、とても、好きだ。


 謹賀新年。
 良い年になりますようお祈りいたします。
 本年も何卒。

 2010年1月1日 三里アキラ
posted by 三里アキラ at 00:00| Comment(3) | TrackBack(2) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月19日

+マリアの夜+

 静かな夜にビスケットを焼いた。
 ツリーのオーナメント用にジンジャーマンビスケットを焼いた。
 上手に焼けた1枚のジンジャーマンを残し、ツリーに飾り付けた。
 ワインセラーから赤のハーフボトルを1本取り出す。高いものではない。
 グラスに注ぎ、飲む。ビスケットを齧る。飲む。
 静かな夜にベッドへ行く。
 布団のぬくもりの中、夢を見る。
 子供を産み、その子がスーパースターになる夢を見る。


 メリークリスマス。
posted by 三里アキラ at 08:36| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月12日

+踏切にて+

 遮断機が下りて、私は足を止める。帰ったら晩ごはん作らなくっちゃ。右手から準快速が来て、乗客の一人と目が合った気がした。スーツを着た若い男性。
 窓の外を景色が流れてゆく。昨日、妻の妊娠が発覚した。嬉しい。一瞬、ケーキ屋が見えた。妻の好きなフルーツタルトは置いているのだろうか。
 ホールのケーキはたった今、売り切れた。カットケーキも残り少ない。今日はよく売れた。私は心地よい疲労感で店の外を見やる。グレーの猫が歩く。
 今日はご主人様、おでかけなので、アイジンの所に行く。商店街を抜けるのは人が多くて嫌なんだが近道なのでしょうがない。角を曲がるとスズメが飛び立った。
 空が橙。仲間と共に神社の大木を目指す。街のあちこちから仲間たちが同じように神社を目指す。少しずつ増える。ちちち、ちゅんちゅん。おやすみなさい、良い夜を。

++追記。++
posted by 三里アキラ at 10:36| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月09日

+空中花+

 年に一度、巫女が花火師を指名する。死の宣告。
 指名された花火師は丸一年をかけて、一つの大きな打ち上げ花火を作り上げる。
 男は皮を作り母を想う。
 火薬を配合し友人を想う。
 星を詰め妻を想う。
 出来上がった玉を抱き締め、一晩過ごした。夜が明けても抱き締め続けた。また夜が来て、まだ抱き締め続け、何日か過ぎた。
 来てしまったその日。よく晴れ月は無く風も吹かない。打ち上げるには最高の条件だ。生きた証を空に記そう。
 導火線に火をつけ子を想う。

++追記。++
posted by 三里アキラ at 20:09| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月08日

+不響輪音+

 広い野原に花一輪。
 しゅっとのびた細い葉と、ベルのようなその花弁。
 強引な北風はベルを鳴らそうと花を揺さぶる。鳴らない。
 軟派な春風は声を上げさせようと花をあおる。鳴らない。
 広い野原に花一輪。
 鳴らない花の音を待ちわびて、集う者。そのざわめきが広がって。

++追記。++
posted by 三里アキラ at 22:56| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月03日

+偽物の世界+

 枕元で、タイマーセットしておいたライブ音源が鳴り始める。
「うーん、起きなきゃ……ね……」
 羊毛布団から抜け出すのは一苦労。羽毛ほどじゃないけれど、正しいぬくもりがある。
 シャワーを浴びたら冷蔵庫からファンタオレンジ。朝から体に悪いとか言わない。
 混紡のババシャツ、百均のストッキング、ドンキのジーンズ、ここで化粧、ユニクロのセーター、ダイエーのロングコート。電池を入れ替える事のできない腕時計をつけ、鏡台の指輪を手に取る。
 貴方がくれた、黄水晶のシルバーリング。私は11月生まれ。指につけ、軽くくちづけ。
「いってきまっす!」
 今日、仕事を頑張ったら明日はデートだ。



++追記。++
posted by 三里アキラ at 21:46| Comment(2) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月01日

+来年咲く花+

「いいこにしていたら花が咲くよ。ななちゃん、いいこに出来るかな?」
 おかあさんがくれたきゅうこんは、つんとみどりのめをだして、おおきくなっていきます。わたしはまいにちおみずをあげます。
 私は植木鉢の「詳細不明球根から育った緑」に水をやる。何年も何年もそうしてきたので、それは私の日課となっていて、「花が咲く」ということをもう思い出しもしない。ただ、母の望んだ娘に育たなかった自分がいるだけだ。


++追記。++
posted by 三里アキラ at 21:06| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月28日

+街角+

 コンビニ横、雑居ビル入口の階段に腰かけている。買ったばかりのシュークリームが甘い、クリームとろとろ。快楽は買える。
 食べながら、通行人を値踏みする。制服のポケットには4,895円。シュークリームならまだ買える。
posted by 三里アキラ at 17:39| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月25日

+理論式+

 ガラス箱の中で育った働きバチであるところの彼女は完結していて美しい。
 二つの太陽が作る影が崩れていくのを残酷な笑みで見届けよう。

++追記。++
posted by 三里アキラ at 00:00| Comment(2) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月22日

+凍える夜+

 涙で割った焼酎を飲むよりも、ふぐを食べましょう。手に入れてしまったふぐをさばいて食べてしまいましょう。
 人に供するには免許が要るが、自ら食べるには自己責任。けれど、肝は毒が強すぎるから死ぬつもりでないなら食べないほうがよいと思う。
 土鍋の昆布出汁が沸騰したら、さばいたふぐを入れます。ふつふつと泡が出てきたら白菜とエノキ。蓋をして、再び沸騰したら食べごろです。ぷりぷりの身をゆず醤油で食べましょう。万能ネギはお好みで。具を食べ終わったら雑炊にしてもよいでしょう。
 私の生まれ育った地方では、ふぐを食べることを「ふくをいただく」と云います。
posted by 三里アキラ at 00:32| Comment(6) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月14日

+狂詩曲+

 歌え! 叫べ! 喜びの声を上げろ!
 毛という毛が逆立つのも、後ろ頭がピリッと締め付けられるのも、心臓が重く鼓動するのも、関節が固まるのも、息が苦しくなるのも、全て冷気を感じる肉体あってのものだと知っているんだろう? 知っているはずだ。それは幸せだろう?
 歩道橋の上で、駅のホームで、防波堤の先で、ビルの屋上で、山奥で、風呂場で。
 歌え! 叫べ! 湧き上がる衝動を留めるな!
posted by 三里アキラ at 12:35| Comment(2) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月07日

+リトルライズ+

「よく冷やしておいたから」
 置かれるお猪口と暖気が伝わってくる徳利。君の頬はすでに赤い。飲んだな。
「鯛のいいのがあったからアクアパッツァにしてみたの」
 目の前には僕の大好きな甘鯛の塩焼き。ほかほかご飯。豆腐の味噌汁。全部僕の好物。
「今日は特別の日だから、ね」
 今日は、じゃなくて、今日も、だよねと思いながらお猪口を舐める。箸を手に取り、甘鯛をほぐす、口に運ぶ。君の悲しみを救えないからか、ご飯も味噌汁も少し、しょっぱい。
 せめて言おう。今日も生きていてくれてありがとう。そして、ごめん。明日もおいしいご飯をお願い。
posted by 三里アキラ at 05:28| Comment(2) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月01日

+フル・アロマティック+

 天気が良いようで、休日の朝の部屋は明るい光に満たされる。ふかふかした枕の上で夢と現実の間を心地よく行ったり来たり。ああ、幸福。
 嘘か本当か判らないけれどたぶん嘘の世界で、あなたが話しかける。朝食ができたよって。あなたはどうしようもなく料理音痴だから、あなたが作る朝食にはバラエティ性が全くない、けれど不快ではないし嬉しい。たぶん、トーストとコーヒー。
 本当か嘘か判らないけれどたぶん本当の世界でも、あなたが話しかける。ねぇ起きてってしつこいくらい。その声はあまりにも悲壮感が漂っていて、逃れたいがためにわたしは頑なに目を閉じたまま。あなたはもはや泣き声で続ける。いかないでって。え?
 疑問はコーヒーメーカーみたくこぽこぽとわたしの中に注がれる。
 ああ、幸福。求められている。幸福。溺れそうになる。幸福に溺れる。
 おぼれ、る、こぽっ。

++追記。++
posted by 三里アキラ at 10:58| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月24日

+ある夜の幻の話+

 ピッカピカに磨き上げた馬車に乗り、里中を巡回。暗闇で白馬は浮かび上がる。
「イタズラはやめてー」
「イイコにしててー」
「鬼は外ー」
 キャンディーが雨のように降る。我らは慰めに応じ、悪行をしない。
 0時。
 消える、あるいは戻る。

posted by 三里アキラ at 16:36| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月17日

+アイガンドーブツ+

「アタシ、ここから出れないの」
 檻ではない、籠でもない、リードもなければ首輪さえない。それは僕への拒絶なのか。
posted by 三里アキラ at 03:10| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月03日

+ピアノ+

 始まったら終演まで止めることはできない。彼女にさえも。
 だから俺はチューニングを徹底的にやる。こちらが気が狂うほどやる。ヘルツ単位でさえも乱れがないように。時間をかけて、徹底的に、完璧に、やりこむ。それが俺にできる全てだから。
 今日のピアノは狂っている。
 俺が狂わせた。意図的に。怒りだったのかもしれない。
 始まったら終演まで止めることはできない。彼女にそんな度胸はない。
 どうしたことか。
 今日の観客はやけに熱い。今日の拍手はやけに多い。
posted by 三里アキラ at 00:18| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年09月26日

+放課後レター+

 ラプンツェルは校舎3階、教室の窓から紙ひこうきを飛ばす。
 ルーズリーフを縦半分に折ったところから始まる紙ひこうき。当然カーブ、失速、落下、さようなら。
 きっちりと編みこまれた黒いおさげは、誰を登らせるでもない。
posted by 三里アキラ at 17:41| Comment(2) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年09月19日

+共犯者+

 貴男にだけ解る言葉で話しかける。
 貴女にだけ解る言葉で応じる。
 機密事項、持出ヲ禁ズ。

posted by 三里アキラ at 16:10| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年09月12日

+ハートケース+

 あなたが与えてくれたイレモノ、今度は壊しません。約束します。感情の増幅で破裂させたりしません。あなたが与えてくれた鎖を緩やかにかけ、大きなズレを防ぐことにします。もちろん蓋はきっちりと閉めます。誓います。直射日光にも当てません。暑いところに放置もしません。落としません。傾けません。盗られないよう気をつけます。イレモノの中だけで生きます、だから、お願い、廃棄しないで。

++追記。++
posted by 三里アキラ at 17:48| Comment(2) | TrackBack(0) | Sudden Fiction | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。