2009年05月26日

+期限切れの言葉+改稿Ver.

 99年前の「カエルになっておしまい」。
 森の奥の沼。カエルにされていた王子様は、ご自分の爪のついた5本の指を目にして驚きました。記憶している限り、初めてご覧になるものだったからです。
 北の魔女は、王子様のお母上であるとても麗しいお后様に嫉妬しておりました。生まれたばかりの王子様に呪いをかけて連れ去ってしまったのです。だから王子様は人間だったご自身をご存知ありません。
 しかし99年の月日を経た王子様はお歳を召してしまっておりました。沼の水面に浮かぶお姿をどのようにお感じになられたのか。頭頂は禿げ上がり、白い髪の毛が僅かに、けれど長く垂れ下がっています。皮膚も弾力無く、お顔も手も皺とシミだらけです。もちろん衣服など身に着けておりません。そして身体そのものも弱っておりました。細く痩せこけた足腰では立つこともできません。お腹が空いても、虫以外に何を食べたらよいのかわからず、その虫さえも、カエルの舌がございませんので捕ることができません。
 力なく水面を見つめていらっしゃると、風が歌ってくれました。
 風の教えに、王子様はとさりと身を横たえられ、そっと瞳をお閉じになったのでした。

++追記。++
posted by 三里アキラ at 20:43| Comment(2) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月15日

+納得できない+

 わたし達は一緒にいる。同じものを食べ、同じ部屋で眠りにつく。
 あなたはいつも笑顔です。少なくとも、わたしといる時はずっと。どんな時も揺らぐことのないあなたの大きな笑みを、わたしは訝しんでいます。だからわたしはあなたを試します。あなたが長い髪の子を好むと聞いて、10年伸ばし続けた黒髪をばっさりショートカットにしました。笑顔でした。白が好きだというから、真っ黒なコートを着ます。「似合うね」って。ショパンが好きだと知ったから、レッドツェッペリンばかり聴いています。アールグレイティーが好きだと言っていたから、わざわざエスプレッソマシンを購入しました。アニメ好きだから、チャンネルはケーブルテレビの日テレニュース24に合わせます。いつもお酒を呷っています。隠れてタバコを吸います。月に2度は知らない男と寝ます。でも、あなたがいやな顔をしたのは一度だけ。あなたには好きなレタスチャーハンを作って、けれどわたしが素うどんを食べた時。
 わたし達は一緒にいる。同じものを食べ、同じ部屋で眠りにつく。
「どれだけ……!」
 どんなにどんなにあがいても、あなたには勝てやしない。あなたの掌で転がされているだけなの。

++追記。++
posted by 三里アキラ at 22:49| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月12日

+頭蓋骨を捜せ+

 ふらりと入ってしまった店。鱈の白子で、お湯割りが進む。始点からは遠く。

++追記。++
posted by 三里アキラ at 20:13| Comment(15) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年02月03日

+スクリーン・ヒーロー+

 静かな日曜日、彼女は私だけのものになる。平日や普通の日曜日では駄目。静かな日曜日。つまりは、彼女の仕事であるところの撮影や舞台挨拶やファン交流会がない日のこと。
 気丈なヒロイン役が多いが、プライベートの顔はまるで子猫だ。この笑顔は私が守ってみせる。


++追記。++
posted by 三里アキラ at 22:40| Comment(7) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月30日

+黒い羊+

「らくがきじゃないの、ぬりえしたの」
 その子は色とりどりの羊の絵を見ながら言った。保育所の所蔵する絵本。
「だってしろくろだったんだもん、かわいそうだったんだもん」
 子供の発想は面白い。大人じゃとても思い付かないようなことを平気で言い放つ。そこが面倒でもあり、楽しみでもある。だから保育士になった。子供は大好き。
「この赤いのは?」
「ママ」
「青いのは?」
「パパ」
「この水色は?」
「おとうと」
「ピンクは?」
「あたし」
「緑は?」
「しょういちくん」
 笑顔で、カラフルな羊たちを解読していく。
 と。
 中に真っ黒な羊をみつける。
「この、黒いのは?」
「それはパパのおんなのひと」


++追記。++
posted by 三里アキラ at 08:49| Comment(6) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月01日

+たまねぎ+

 タイミング悪く降り出した雨に帰路を急ぐ。まだ家には少しあるけど鞄の中のプレゼントを手と眼で確認する。ねえ、君は憶えてるかな、初めてデートしたときのこと。
 銀色の指輪を準備して鍵を取り出すと、家の中から僕の大好きなカレーの香り。


++追記。++
posted by 三里アキラ at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月12日

+ジャングルの夜+

 真っ赤で丸い月の夜。ビールを買いに外に出ました。
 公園前の自販機で、買ってその場で飲み干しました。
 飲み足りなくてもう一本、そうだ、と公園に入ってみたらあら驚愕。
 そこそこ広い公園です。記憶によると砂場・ブランコ・滑り台。
 そして、確かにそこにあったのは。
 ジャングルジム。何これ何これ何なんだ。その一角だけ緑の塊。
 恐る恐ると近づいて、触ってみると「……樹?」。
 酔ったんだ、思って缶を頬に。けれどもまた思ったの。それもいいかと思ったの。
 ぷしゅっと開けるプルトップ。ぐびっぐびっと飲み干しました。
 たまには酔って自分開放。Tシャツ・ジーンズ脱ぎ捨てて、そいやっ、と飛び込む緑の中へ。空には赤いラフレシア。気付けば自分は「森の人」。
 長い手足は鉄ではなくて枝掴み、進んでいくよオランウータン。
 ひゃっほー、ひゃっほー、うぃききききー。


++追記。++
posted by 三里アキラ at 17:13| Comment(2) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月05日

+きみはいってしまうけれども+

 あなたがうまれたということはパパもママもわすれないからね。


++追記。++
posted by 三里アキラ at 22:17| Comment(6) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月11日

+銀天街の神様+

 魚市場から少し南にいくと猫町銀天街です。不況の波にあおられて、にゃあにゃあ猫が闊歩していても、お客さんは猫より気まぐれで何も買いやしないのです。
 シャッターが閉まってしまった店舗が多くなったものの、隅っこのほうにひっそりと恵比寿様が祀られています。参拝者の居ないときにはこっそり魚市場で釣りをしているみたいです。鯛がかかると竿がびゅんびゅん引くのでとても楽しいですしね。そういうわけで恵比寿様は時々本物の鯛を抱えています。釣った魚は猫たちに頼んで店々に運んでもらっているそうです。本当は小判を配りたいらしいのですけれど、猫たちにその価値は判らないのです。小判を配っていたなら閉店する店もこれほど多くは無かったかもしれないのにね。
 アーケードも古びてすっかり寂れてしまった商店街ですが、信心からかあるいは魚の匂いに引かれるのか、人通りならぬ猫通りばかりが前にも増してしまいましたにゃあ。

++追記。++
posted by 三里アキラ at 00:00| Comment(4) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月06日

+誰よりも速く+

 クラスのあきこちゃんの誕生会、集合時間は君の生まれた午後一時、君が生まれたときから好きだというドラえもんのぬいぐるみを持って、一番に君の喜ぶ顔が見たくて、会いたい会いたいと思いバビュン、音速を超え、光速も超えて君の家へやってきたのだけど、あれあれ時間の壁までも超えてしまったようで、残念、約束の時間よりもはるかに早く着いてしまったので君はまだ生まれてさえいなくて、けれど、僕は君のことを誰より先に知っていて、君のことを一番想っているのは僕だから、君に会いたい会いたい、と今度は君が生まれたというマリア病院へ向かって、音速を超え、光速も超えてバビュン。

++追記。++
posted by 三里アキラ at 21:44| Comment(2) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月06日

+その他多数+

 生活に必要なものは、もう新居となるマンションに移してある。
 これは保育所のわたるクンにせがんで貰ったビー玉、持っていく。小学校のさい藤クンがくれたメダル、持っていく。中学校の池永先輩から貰った第二ボタン、いらない。高校の明仁から誕生日に貰った指輪、いらない。薫から卒業式で貰った万年筆、持っていく。大学のトシから貰った時計、いらない。
 友達からは、飲み会のたびに「恋多き女め」と言われてネタにされ続けた。
 自分では「そうでもないんだけどな」と思っていたし、今でも思っている。
 サークルの和明くんから貰ったぬいぐるみたち、いらない。同期の伊藤から押し付けられたピアス、いらない。合コンで会った宏道とおそろいで買ったネックレス、いらない。後輩の浜田から貰ったCD、いらない。先輩の宮沢さんから貰ったシャンパン、飲んでしまおう。
 意外と本気の恋ってしてないんだよね。この部屋にはいらないものばかりだったんだ。
 職場の女性一同から貰った花束、持っていく。
 明日、結婚、します。
 拓也さんとの初デートで行った映画の半券、持っていく。


++追記。++
posted by 三里アキラ at 00:09| Comment(3) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年12月10日

+仮面+

 さぁさ宴が始まるよ。舞踏会のお決まりは、みんな仮面をつけること。そして詮索しないこと。仮面をつければただの人。身分家柄忘れてしまえ。
 仮面をつけた舞踏会。出会ってしまった天使と悪魔。仮面で互いが判らない。踊る踊るよ音にのせ。白いドレスと黒燕尾、ステップ踏み込むその足は、あまりに華麗でみんな釘付け。本人たちの間にも”恋”の始まり感じ出す。激しく胸打つその鼓動、ダンスのせいか想いのせいか。
 宴の終わったその後に、木陰で二人語り合う。再びその手が触れたとき、悪魔は天使を抱き締めた。くちづけしたいと囁くと、少しためらい仮面を外す。相手の顔を見たときに二人は知った「もう会えない」。一人は天界、大天使。一人は魔界の皇子さま。
 抱き締められて離れない。抱き締めたくて離さない。身分家柄忘れたの。優しく触れ合うくちびる二つ。
 仮面をつけて歩き出す。別方向に歩き出す。「さようなら」「さようなら」声にならない言葉を交わし、別方向に歩き出す。
 さぁさ宴は終りだよ。舞踏会のお決まりは、みんな仮面をつけること。そして詮索しないこと。仮面をつければただの人。そのとき二人、ただの人。一人の男と一人の女。

++追記。++
posted by 三里アキラ at 06:44| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月29日

+赤裸々+

「おぎゃあ」という第一声が全てだった頃が懐かしい。憶えてはないけれど。


++追記。++
posted by 三里アキラ at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年09月23日

+捩レ飴細工+

 政治犯は裸にされ、飴色の箱の中に入れられた。着色料の代わりだ。
 死刑執行。
 箱は捩られ、罪人の叫びがこだまする、が、すぐにぐしゃあと肉体と箱が一体化する。
 お上の命令である。牽制をこめたオブジェにするのだという。


++追記。++
posted by 三里アキラ at 18:24| Comment(4) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年08月20日

+愛玩動物+

 脇見を知らないという愚かな幸せ。


++追記。++
posted by 三里アキラ at 23:14| Comment(2) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月18日

+何の音だ+

 お問い合わせありがとうございます。カスタマーセンターの小泉と申します。

 ご購入いただきました製品からノイズが聞こえるとのことですが、説明書にございますとおり、これは異常ではございません。

 ヘッドフォンHo−ichi1904モデルは、琵琶ミュージシャン・Ho−ichi氏が愛用しているものと同型のものでございます。
 こちらの製品の特徴といたしまして、ライブの臨場感がご自宅でも得られる、ということがございます。近くにいる霊からの声援がヘッドフォンを通して聞こえる、という仕組みでございます。

 とはいえ、怨霊のような害のある霊はそうはおりませんので、憑かれたり呪い殺されたりすることはほとんどございません。ご安心ください。
 どうしてもお気になられるようでしたら、ご自宅のお祓い等のご紹介もいたします。

 今後とも当社製品をご愛顧いただけますようお願い申し上げます。


  (株)音響機器kwaidan


++追記。++
posted by 三里アキラ at 01:23| Comment(1) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年06月14日

+間に合わない+

 すべり落ちたアンティークのボーンチャイナは大理石の床に触れるところで静止している。

++追記。++
posted by 三里アキラ at 00:00| Comment(3) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年05月05日

+這い回る蝶々+

 アオスジアゲハをつかまえた二人。この蝶々はトルコ石みたいな羽を持っている。とても速く飛び回るので、つかまえるのが難しい蝶々。
 はさみで根元からちょきん。羽と体は離ればなれ。
「これキレイねえ、アッちゃん」
「キレイねえ、ヨウちゃん」
 長い足で地を這う蝶々。その姿はひどくみじめだ。初夏の日差しが作りだす影がくっきり。
「ヨウちゃん、桃子って読んだことある?」
「ううん、何それ?」
「絵本」
「ふうん」
 地面を歩くようにできていないので、蝶々は動きのわりに移動していない。
 アッちゃんと呼ばれた子の母親には最近、若い恋人ができた。昼間から子供を放り出し、情事に勤しむ。何をしているかは、アッちゃんにまだ解らないこと。
「それ何?」
「お母さんの部屋にあったの」
 見る人が見ればわかる赤く太い蝋燭。二人は火遊びをはじめる。太陽の中で、炎は透明にたよりない。
「アッちゃん、それ、残酷」
 ぷくく、とヨウちゃんと呼ばれた子が笑い、アッちゃんもニヤニヤと笑みを浮かべている。ぽたり、ぽたり。蝋が垂れる。逃げようと這い回る蝶々。しまいに、二人は蝶々を封じてしまった。
「なんか粉、手についちゃった」
「汚いね、羽。捨てちゃおうか」

++追記。++
posted by 三里アキラ at 21:10| Comment(3) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年03月24日

+チョコ痕+

 密室に男女。シタイ。胸にはうたれた痕がある。二月、零時を過ぎて日付は十五日。

++追記。++
posted by 三里アキラ at 01:48| Comment(1) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月09日

+日の出食堂+

 岩戸にこもったアマテラス。機嫌を損ねて出てこない。岩戸の奥で一人きり。暇に任せて料理の研究。毎日毎日作るうち、美味しい肉じゃが、魚の味噌煮、おふくろの味何でもござれ。だがしかし。料理の腕は上がったが、披露する場がどこにもない。
 今日も料理をしていると、なにやら外が騒がしい。岩戸をそっと開けてみる。外はドンチャンお祭り騒ぎ。あれよあれよと連れ出され、いつの間にやら祭りの中心。戻ってきたよ太陽が。
 祭りはひたすら一日続き、みんなくたくた。腹ぺこぺこ。
「岩戸の中におかずなら」
 アマテラスの発言に、踊るみんなは殺到し、白飯求めわめきだす。
 かがり火で炊くたくさんの米。ほかほか全員いきわたり、おかずはどうぞ好きなだけ。
「日の出の祝いの会食だ」
 誰かが言い出し、わっはっは。アマテラスもわっはっは。
 みんな楽しく、飯は旨い。
 おかずをつぎわけ、白飯よそう。日本最初の食堂女将、天照大御神。お代はツケで結構よ。太陽笑うよ、わっはっは。

++追記。++
posted by 三里アキラ at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | Sudden Fiction 心臓 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。