2006年12月08日

+冷気のカード+

****差し出されたカードの表

 白装束は着なくなりました。長い髪にはパーマをあて、ピアスも開けました。けれど駄目なのです。私が雪女であるかぎり連れ添ってくれる人なんていやしません。逃げ去ってゆくか腕の中で冷たくなるか。
 せめて見た目だけでも暖かくなるようバラ色ルージュをひきました。手を触れるだけでも幸せなのに、それは叶いません。
 誰かに愛してもらいたいだけなのに。


****ひっくり返したカードの裏

 雪山で声をかけた女とホテルへ。長い髪に白い肌。
「シャワーは後でいいわ」
 女が言うのでそのまま行為に及ぶ。部屋は冷えていたが、動けば温まるだろう。
 ギッギッ。
 最中、細い首に手をかけてしまうのは性癖だ。女は抵抗しない。力を入れる。女は抵抗しない。強く絞める。女は抵抗しない。よく締まる。
 女の中に果てる。くったりと動かなくなった女の体は一握りの雪。精液は小さく凍りついている。
 寒い夜。体に残った凍傷は女の情かもしれない。
++追記。++
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2006年11月16日

+夜夜中+

 ぬばたまの夜の、月もない真っ暗闇。フクロウも、コウモリも、草木さえ眠る深い夜。夜の精霊、ヨルが眠りにつきました。疲れたぁ、って。
 今まで「夜中」はただの夜中で、ヨルが皆を眠らせようと一人で働いていたのです。働き者のヨルは毎晩、まろやかな眠りの粉を振り撒いていました。眠りの粉がかかるとたちまち穏やかな夢が舞い降ります。
 くしゅん。
 秋風に冷たくなった空気。小さなくしゃみで眠りの粉を吸い込んでしまいました。だんだんと動きがゆっくりになり、頭がぼやぁとしてきます。ヨルは仕事を成し遂げるために頑張りましたが、最後の一人に眠りの粉を振りかけたときにつぶやきました。ああ疲れたぁ、って。幸福な脱力感でした。
 ふわふわと漂い、ふうふうと息をつき、ふかふかの寝床にたどり着きました。まぶたを閉じるとすうっと力が抜けてゆきます。ヨルの寝息が聞こえてきました。
 ぬばたまの夜の、月もない真っ暗闇。フクロウも、コウモリも、草木さえ眠る深い夜。ヨルまでも眠ってしまったこの世界には、ただ静かに時が流れていました。

++追記。++
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2006年10月02日

+化石村+

 いたずらっこは罰として小石にされてしまいました。鬼婆は小石を村のお堂に集めます。お堂には小石が山のよう。どれも「してやったり」という顔をしています。小さな笑い声がこだましていました。
++追記。++
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+グッドニュース、バッドニュース+

「コノ先、移住可能ト思ワレル惑星ヲ発見」
 数世代にわたる宇宙漂流。この船に大地を知る者は既にない。伝え聞いた大地。私も胸が高鳴った。船をその星に向ける。
「目的地マデ、八百光年」
 操舵室はため息に包まれた。数世代後の子供たちは大地に立ち、空を見上げることだろう。
 誰もが思った。
「何としても性交権取得試験に受からなければ」

++追記。++
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2006年05月26日

+富士山+

 世界一になりたかった男がいた。成長するに従って「世界タイ記録でいい」「日本一でもいいかな」「なんなら日本タイでも」とその夢はだんだん小さくなっていったが、思いはずっと胸に秘めていた。さくらんぼの種飛ばしなんていう謎の競技にも挑戦した。
 富士山登山を思い立ったのは会社の同僚から「日本一の山に登ったぞ」と聞かされたから。身近な所にあるじゃないか。彼はいそいそと登山の計画をたてた。日程も決めた。
「よし、今度の土曜だ」
 当日はひどい霧だった。僅かな先も白くて見えない。しかし彼は止めようとしなかった。足元は火山灰なのか、もろくて歩きづらい。服はじっとりと重く湿っていく。けれども彼は登山道のロープだけを頼りに少しずつ少しずつ登っていった。初めての登山だった。
 どれくらいかかっただろうか。登山道が終わった時、彼は幸せだった。間違いなく日本一、いや世界一の幸せを感じている。達成感で目頭がじわっと熱くなった。彼は感動している。まだ後ろの看板――ようこそ双子山へ――は見えていない。
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2006年04月21日

+眼球+

 宇宙の遠くの遠くの遠くにある惑星、眼球。地表の大半は水に覆われていて、その組成は私たちのこの地球によく似ています。
 眼球は愛という衛星を持ち、その引力によって涙が満ち引きしています。
++追記。++
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2006年04月08日

+昼間、キッチンで+

 調理用の安い酒を飲んでいたら、左手の薬指にかさこそと虫の気配がしたので爪ではじいた。見てみると虫ははじかれずに指の中に潜り込んだようだ。指の肉を齧ったらしく痛みが走ったので右手で搾り出そうとしてみたが、虫は指から手首のほうへ肉を齧りながら進んでいく。何とかしようとナイフを持ち出して虫がいる辺りをさくっさくっと切り裂いていった。虫が体にいるなんて気味が悪いわ。虫はいないが虫が通ったと思われる道筋が見つかった。何かどす黒い液体が湧き出ている。虫はどんどん上のほうへ上のほうへと進んで規則的にうごめく。左手から全身にぞわぞわと寒気が走る。恐ろしいことに大きくなってきているらしい。虫の動きが速く強くなってきた。ナイフを握る手には汗がにじみ左腕を何度も何度も切り裂くけれど、虫は見つからず道筋だけが見える。もっと上、もっと上。虫はどんどん大きくなり進んでいく。切り裂く位置もそれに従い次第に心臓に近づいていく。左腕は既に元の形を留めていない。ああ、そうだ。そういえばここに置いていたわと拳銃を持ち出し打ち抜くと、ああ、やっと虫を殺せた。どくんどくんと動いていた虫は止まったわ。
 その時、世界は暗転する。
++追記。++
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2006年03月17日

+プラスティックロマンス+

 一人の芸大生が亡くなった。交通事故だった。
 未完成だった彼のガラクタは、夢の島に放り捨てられた。
 一羽のカラスがそれに求愛をはじめる。
 そしてそれはずっと続いた。
 ずっと。
 朽ちることのないガラクタは何もこたえない。
 そしてそれはずっとそこにあった。
 ずっと。
 土に還らない材質で作られていたことは良いところであり悪いところでもある。
 やがてカラスの命は尽きてしまった。
 夢の島にガラクタという恋人を残して。
++追記。++
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2005年12月09日

+そこだけがちがう+

「これがうちの新商品の試作品なんです」
 目の前に出されたのはバケツ。
 ブリキのバケツ。
 ただのバケツ。
 どう見てもバケツ。
「ええと・・・・・・私にはただのバケツにしか見えないんですけど」
 私は言った。
 相手はにこやかに解説を始める。
「これはここが新しいんですよ」
 バケツをひっくり返す。
「ここをこう、ポンと叩くとですね」
 あっ、底が抜けた!
「こんな風に穴が開くんです」
 あっけにとられる私。
「プッチンプリンからヒントを得ましてね、これでバケツサイズのプリンが出来るというわけ
です」
 売れますか?それ。
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2005年10月27日

+連れてゆく+

 おれは鰯だ。ちっこくて群れで泳ぐ鰯だ。

 今日は岸壁沿いを回遊だ。

 おっ旨そうな餌があるじゃないか、ぱくっ。

 うわぁしまった。これ疑似餌だ。針が口に引っ掛かっちまった。

 おおいみんな、ここに旨い餌があるぞぉ。

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