2011年09月10日

+ジュエリーボックス+

 パリ、パリ、と凍りついた赤い落ち葉を踏みしめながら森の奥へ向かう。木々の大半は葉を落とし、冷たい風が吹きぬける。隙間から見える空は鉛。
 もういいだろう、と人が踏み入った気配のない場所に穴を掘り始める。ザクッザクッ。落ち葉を分けた地面は思ったよりも固かった。それでもバスタブくらいの大きさの穴を掘ることができた。
 持ってきたキャスタートランクを開ける。中からチョコレートを取り出して穴に放り込む。本、放り込む。レコード、放り込む。飴玉、ざらり。写真、ぱさり。最後に僕自身が穴に入り込む。お風呂につかるように。
 ふぅ、とため息をつくと空から雲の欠片が降り始め降り積もり、宝物は誰にも見つからない。

++追記。++
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2011年09月03日

+空が泣くので+

 空が、寂しい寂しい、と泣くので私は天に手を掲げ抱き締めようとする。空の嗚咽で私の胸まで締め付けられるがそっと包み込む。柔らかい風がふっと駆け抜け私の髪が揺れる。やがて空は泣くのをやめて私を抱き締め返す。
 あんなに涙を浴びたのに、いざ抱き締め返されると私の体はどんどん乾いてゆき、干からび、ぐっと力を入れられた瞬間に砕ける。かさっと音を立てて私だったものが高いところまで巻き上げられてゆく。
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2011年08月27日

+ネイティブダンサー・インザダーク+

 光は騒音だ、彼は言う。新月の夜、真っ暗闇の中、彼が踊る様を見つめる。スニーカーの白いラインとかTシャツのプリントとか、あとは地面と空気のかすかな音で、彼が踊り狂っていることを確認できる。
 喋るのはあまり得意じゃない、彼は言う。だから私が彼とこうも親密になったのは何か縁でもあったのかもしれない。
 彼はタバコを吸わない。彼はお酒を飲まない。彼は本を読まない。進んで音楽を聴くこともない。私は時々、彼にワンフレーズの音の欠片を与える。決して巧くないハミングで。彼は、けれどそれをしっかりと咀嚼し、飲み込み、全身で味わう。指が揺れ始め、膝がリズムを刻みだす。
 彼の世界には彼の望んだものしかない。それは彼にとって幸せなことだろうし、私にとって寂しいことでもある。
 空が白みだす。
 汗だくになった彼は座り込み、私は彼にコカ・コーラのペットボトルを手渡す。プシュッと音がして栓が開けられ、三口ほどごくごくと飲む。帰ってきたボトルから、私も三口、ゆっくりと飲む。
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