光は騒音だ、彼は言う。新月の夜、真っ暗闇の中、彼が踊る様を見つめる。スニーカーの白いラインとかTシャツのプリントとか、あとは地面と空気のかすかな音で、彼が踊り狂っていることを確認できる。
喋るのはあまり得意じゃない、彼は言う。だから私が彼とこうも親密になったのは何か縁でもあったのかもしれない。
彼はタバコを吸わない。彼はお酒を飲まない。彼は本を読まない。進んで音楽を聴くこともない。私は時々、彼にワンフレーズの音の欠片を与える。決して巧くないハミングで。彼は、けれどそれをしっかりと咀嚼し、飲み込み、全身で味わう。指が揺れ始め、膝がリズムを刻みだす。
彼の世界には彼の望んだものしかない。それは彼にとって幸せなことだろうし、私にとって寂しいことでもある。
空が白みだす。
汗だくになった彼は座り込み、私は彼にコカ・コーラのペットボトルを手渡す。プシュッと音がして栓が開けられ、三口ほどごくごくと飲む。帰ってきたボトルから、私も三口、ゆっくりと飲む。
posted by 三里アキラ at 00:00|
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